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本のない書斎/中身のない研究

「どじょうと金魚」 小川 未明

アプリの「新着」にあったのが目について読んだ。 小川未明の作品はおそらくはじめて読む。「赤い蠟燭と人魚」の人、というイメージだが、読んだことはないのである。 とても短い作品で、夢野久作の子供向け作品のような印象を受けた。 ある日(ひ)、子供(…

「明治開化 安吾捕物 その八 時計館の秘密」 坂口 安吾

変化球。海舟と虎之介は後半に少し顔を出して間違った推理を披露するが、それだけである。新十郎もさらっと登場するのみ。そして犯人を知りながら(正確には「殺人があったということを知りながら」と言うべきかもしれない。ほかの者にはただの失踪と思われ…

「安吾巷談 05 湯の町エレジー」 坂口 安吾

温泉街の、憎めない盗人。 およそ犯罪者につきものの、残忍さや卑怯さといったものとは違い、鮮やかな手口はむしろ痛快ですらある。 捕まったあと、差し入れにも手をつけず(おどろくべきことに、この盗人にはたくさんの差し入れがあるのである)何も口にし…

「安吾巷談 04 今日われ競輪す」 坂口 安吾

安吾は競輪の不正を告訴しているが、この「今日われ競輪す」では、八百長の仕組みや必然性を鮮やかに解き明かしている。本当かどうかわからないが、説得力がある。 そして主張もまっとうである。 八百長の元は、場内整理にボスが当り、選手派遣についてもボ…

「安吾巷談 03 野坂中尉と中西伍長」 坂口 安吾

一人の部隊長があって、作戦を立て、号令をかけていた。ところが、この部隊長は、小隊長、中尉ぐらいのところで、これが日本共産党というものであった。その上にコミンフォルムという大部隊長がいて、中尉の作戦を批判して叱りつけたから、中尉は驚いて、ち…

「安吾巷談 02 天光光女史の場合」 坂口 安吾

政党を異にするものの結婚生活が成立するか。 ここで問題になっている具体的な案件についてはよくわからないが、おそらく当時の時事ネタ(というかゴシップ)なのであろう。 私は恋愛だとか結婚というものを処世の具に用いることを必ずしも悪いとは思わない…

「安吾巷談 01 麻薬・自殺・宗教」 坂口 安吾

戦後間もない時期の世相を活写した、ルポルタージュ。1950(昭和25)年1月号から12月号にかけて、「文藝春秋」に連載された。前年2月から4月にかけて、作者は、睡眠薬(アドルム)中毒の治療のため、東大病院精神科に入院した (青空文庫の説明より) 安吾が…

「日本文化私観」 坂口 安吾

「堕落論」に次いで代表作にあげられる安吾のエッセイ。 米粒写経の居島一平さんが、「高校時代に公園で坂口安吾の日本文化私観を読んでひとりでさめざめと泣いた」という話をしていた。わたしが言うのもおこがましいが、良いエッセイだった。 わたしは「美…

「明治開化 安吾捕物 その七 石の下」 坂口 安吾

囲碁好きの安吾らしい作品。碁の最中に毒を盛られた千頭津右衛門は、碁盤の方角を指さして死んだ。それが、津右衛門しか知らない宝の在り処を示すダイイングメッセージというわけだ。 これは「石の下」という手で、碁をよく知るものにしか分からない。それか…

「明治開化 安吾捕物 その六 血を見る真珠」 坂口 安吾

真珠の密漁をする部分が面白かった。 世界観というか毛色がちょっと違うように感じたので、どうやって新十郎たちを登場させるのだろうと思ったが、要らぬ心配だった。それから3年後に未亡人が依頼人として訪ねてくるのである。 最後は論点をずらしていいこと…

「明治開化 安吾捕物 その五 万引家族」 坂口 安吾

だんだん冒頭の「海舟と虎之介」のシーンが省略されるようになり、「事件の話をたっぷり語ったうえで後半にようやく名探偵が登場する」という、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズのようになってきた。事件は虎之介の聞き伝えでなく、字の文で語られる。 「万引…

「明治開化 安吾捕物 その四 ああ無情」 坂口 安吾

この作品は、アニメ「un-go」の第二話のモチーフとなっている。 とはいえストーリーはほぼ別物と言ってよく、「un-go」では戦意高揚のため政治的に作られたアイドルの話になっていた。このアイドルグループの名前が「ヨナガヒメ」であるのがいかにもオマージ…

「明治開化 安吾捕物 その三 魔教の怪」 坂口 安吾

秋雨の降りしきる朝。海舟邸の奥の書斎で、主人と対坐しているのは泉山虎之介。訪客のない早朝を見すまして智恵をかりにきたのであるが、手帳をあちこちひッくりかえして、キチョウメンに書きこんだメモと首ッぴきに、入念に考えこんでは説明している。後先…

「如是我聞」 太宰 治

有名な「志賀直哉への批判」である。 この人の時代にインターネットがあったら、ということを考えずにはいられない。 きっと面白いことになっただろう。 醜い顔の東洋人。けちくさい苦学生。赤毛布(あかげっと)。オラア、オッタマゲタ。きたない歯。日本に…

「フォスフォレッスセンス」 太宰 治

締め切りまでに原稿が書けなくて、編集者の前で口頭で即興の物語をつくり記述させた、というエピソードを聞いたことがあったので、どんな酷い作品だろうかと思ったら全然そんなことはなく、むしろ出来過ぎているとさえ感じた。頭の中ではすでに出来上がって…

「明治開化 安吾捕物 その二 密室大犯罪」 坂口 安吾

「密室大犯罪」 などという大仰で不謹慎なタイトルが素敵である。 後半で少しだけ「舞踏会殺人事件」のお梨江が登場する。1話だけの登場人物かと思ったが、シリーズ通してのヒロインなのかもしれない。とはいえあまり活躍するわけではないのだが。 こちらも…

「明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件」 坂口 安吾

「舞踏会殺人事件」はアニメ「un-go」の1話のモチーフになっている。 海舟はいわゆるアームチェアディテクティブ、安楽椅子探偵のような役である。現場は一切見ないで、虎之介の話を頼りに推理をする。しかし名探偵のようにはいかず、惜しいところまではいく…

「明治開化 安吾捕物 01読者への口上」 坂口 安吾

坂口安吾のアニメがあったらしいと知って調べてみた。 「un-go」という作品で、「明治開化 安吾捕物」をモチーフにしたものらしい。そのままではなく、かなり改変がある。「アニメ化」ではなく、「アニメの元ネタ」という認識で良いと思う。 安吾捕物はまだ…

「明日は天気になれ」 坂口 安吾

エッセイ集。 獅子文六と交流があったことが書かれている。わたしは安吾のカタカナ使いに獅子文六を思い出していたので、また獅子文六はもっと後の時代だと勝手に思っていたのでこれには少し驚いた。 短いエッセイが100話あるので少しづつ楽しんだ。 明日は…

「木枯の酒倉から」 坂口 安吾

安吾の処女作。であるのだが、これまでに読んだ作品の中ではもっとも難解であった。もっとも、分かりやすさというのはその作品の良し悪しを決める決定打にはならないし、わたしの理解が不足しているという点は否めない。 主人公が狂人のような不思議な男と出…

「文づかひ/文づかい」 森 鷗外

「文づかひ」とは、文、つまり手紙を届ける「遣い」のことであった。主人公が姫から預かった手紙を届けるという筋書きは分かったものの、細部を理解するのがなかなか難しい。姫は親の決めた結婚が嫌で、その手紙によってそれを免れた、ということになると思…

「D・D・Tと万年床」 坂口 安吾

安吾の「明日は天気になれ」を読んでいて、D・D・Tの話が出ていたのでこちらも読んだ。D・D・Tというのは薬品の名前だが、おそらくは強力な殺虫剤であろう。 わたしは安吾の部屋の写真がとても好きだが、このエッセイを読むととてもここには住めないな、と思…

「黒蜥蜴」 江戸川 乱歩

明智小五郎シリーズ。「黒蜥蜴」という女の賊が登場するが、テイストとしては二十面相のシリーズに近い。殺人事件の推理をするのではなく、怪盗と騙し合いをするのである。子供向け作品ではないと思うのだが、相変わらず変装やら身代わりの人形やらのトリッ…

「駈込み訴え」 太宰 治

再読。最初に読んだのはおそらく「人間失格」の文庫本に収録されていたもの。最後に語り手がユダと名乗るのが印象的であった。なんとなく分かっていても、鮮やかだと思う。 読み返してみて、こんなに疾走感のある作品だったかと驚いた。はじめて読んだときと…

「めくら草紙」 太宰 治

なんにも書くな。なんにも読むな。なんにも思うな。ただ、生きて在れ! ようやく「晩年」の作品をすべて読んだ。少しづつ読んだのでかなり時間がかかった。どうも読むのが疲れるのだ。 ひとつわかったことがある。作家の作品はまず代表作をいくつか読むのが…

「陰火」 太宰 治

おれはいまに大作家になるのであるから、この小説もこののち百年は世の中にのこるのだ。するとお前は、この小説とともに百年のちまで嘘つきとして世にうたはれるであらう、と妻をおどかした。 「誕生」「紙の鶴」「水車」「尼」の4遍から成るが、「尼」は間…

「四月馬鹿」 織田 作之助

武田さんのことを書く。 ――というこの書出しは、実は武田さんの真似である。 武田麟太郎氏を偲ぶエッセイ。 四月一日の朝刊を見ると、「武田麟太郎氏急逝す」という記事が出ていた。 私はどきんとした。狐につままれた気持だった。真っ暗になった気持の中で…

「夜行巡査」 泉 鏡花

再読。鴎外の「高瀬舟」を読んで思い出したので読んだ。泉鏡花はわたしには難しいのだが、この作品は比較的わかりやすい。 どのような状況においても冷徹に職務を全うする巡査。道徳よりも私情よりも職務上の規則を行動の指針とする。とにかく融通がきかない…

「高瀬舟/高瀬舟縁起」 森 鷗外

訴えるものに泉鏡花の「夜行巡査」を思い出した。 罪人を島へ送る高瀬舟。あるとき乗せた弟殺しの喜助は、他の罪人とは様子が違っていた。晴れやかな表情を浮かべる喜助に同心が話を聞く。 喜助のポジティブさに驚かされた。わたしなどは、罪人となった時点…

「貝の穴に河童の居る事」 泉 鏡花

河童が人間に復讐する話なのだが、「復讐」という深刻さはあまりなく、ユーモラスな作品である。人外のものがいろいろ登場する。 「口へ出して言わぬばかり、人間も、赤沼の三郎もかわりはないでしゅ。翁様――処ででしゅ、この吸盤(すいつき)用意の水掻(み…

「私の小説」 坂口 安吾

「私の小説」ということについて書いてくれ、と言われたそうだ。 「作品がすべて」ということを安吾はたびたび書いている。 作家にとつて小説は全てであり、全てを語りつくしてをり、それに補足して弁明すべき何物も有る筈はない。有り得ない。文学は全ての…

「玩具/『玩具』あとがき」 太宰 治

私は夜、いつも全く眼をさましている。昼間、みんなの見ている前で、少し眠る。 私は誰にも知られずに狂い、やがて誰にも知られずに直っていた。 幼い頃の記憶。あるいは嘘。この感覚、少しわかる気がする。 これは未完の作品らしい。あとがきは「玩具」「魚…

「雪国」 川端 康成

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。 ノーベル文学賞受賞、そのタイトルと冒頭はあまりに有名だが、恥ずかしながら初読である。長編小説と思い込んでいたのだが、案外短い。 読んでいて辛い。「雪国」…

「大望をいだく河童」 坂口 安吾

昔、池袋にすんでいたころ、小学校の生徒に頻りに敬礼されて、その界隈を遠廻りに敬遠して歩かねばならなくなったが、僕に似た先生がいたに相違ない。 戦争中、神田の創元社へよく遊びにでかけたが、日大生に時々敬礼された。何先生が僕に似ているのか気にか…

「ロマネスク」 太宰 治

「仙術太郎」「喧嘩次郎兵衛」「嘘の三郎」の3篇から成り、それぞれ独立した話のようであるが、「嘘の三郎」で3人が出会う。いくらでも深読みはできるが、表面のユーモアだけでも面白い。 太郎は不思議な力を持つ子供だった。仙術を身につけて、鼠や鷲や蛇…

「彼は昔の彼ならず」 太宰 治

こっちへ来給え。このひがしの方面の眺望は、また一段とよいのだ。 実際に景色を見ながら案内するような文体が面白い。 主人公の男は大家である。親の財産で不自由なく暮らしているが、今度家を貸した人物がどうも一筋縄ではいかない。端的に言うと、家賃を…

「魔術師」 谷崎 潤一郎

「私」は恋人と一緒に、魔術師がいるという公園を訪れる。この公園というのがあらゆるものをごった煮にした歓楽街のような様相で、ある意味醜悪である意味美しいような奇怪な場所である。 この美しい魔術師は性別も国籍もはっきりせず、したがって「美女」と…

「人魚の嘆き」 谷崎 潤一郎

谷崎のフットフェティシズムは有名だが、わたしに若しもフェティッシュというものがあるとすればそれは人魚である。実在しない対象へのフェティシズムというのは可笑しいかもしれないが、わたしにとって人魚というものは、幼少期から始まって今に至ってもな…

「双生児」 江戸川 乱歩

強盗殺人によって死刑宣告された男。しかし男は過去にも別の殺人を犯していたことを告白する。 双子の兄を殺して入れ替わるというのは「パノラマ島奇談」を彷彿とさせるが、こちらの作品はもっとあっさりしている。兄となって富と妻を手に入れた「私」は、指…

「随筆銭形平次 19 探偵小説このごろ」 江戸川 乱歩 野村胡堂

野村胡堂と江戸川乱歩の対談。 野村 わたしはね、こう思うんだ。探偵小説は盲目的本能の安全弁だと。探偵小説を読んでいる人は兇悪な犯罪はやらない。先生に毒入りウイスキーを贈って殺した東大小石川分院の蓮見。あんな犯罪は一見探偵小説をまねたようで、…

「黒手組」 江戸川 乱歩

「黒手組」という盗賊に誘拐された娘を取り戻すべく、明智小五郎が手腕を振るう。明智は娘と身代金を見事取り返したが、事件の真相については語れないという。 そもそも誘拐事件はなかった。娘は恋人と駆け落ちしたのだ。そして書生の牧田がそれを利用した。…

「逆行」 太宰 治

第一回の芥川賞候補になった作品。25歳、大学生、高校生、少年、と時間を逆行していく。主人公の男はかなり色濃く太宰を反映していると感じる。 大活字版 ザ・太宰治〈下巻〉―全小説全二冊 作者: 太宰治 出版社/メーカー: 第三書館 発売日: 2006/10 メディア…

「真昼の悪魔」 遠藤 周作

無感動で乾いた心を持つ女は、良心の呵責を得たいがために「悪」を行なう。その行為に気が付いた若者が2人。点滴のミス、薬のすり替え、一見事故のように見える出来事に、4人の女医の誰かが影で暗躍している・・・ この「無感動で乾いた心を持つ」女医が主人…

「太宰治情死考」 坂口 安吾

すぐれた魂ほど、大きく悩む。 太宰がメチャメチャに酔って、ふとその気になって、酔わない女が、それを決定的にしたものだろう。 泥酔して、何か怪(け)しからぬことをやり、翌日目がさめて、ヤヤ、失敗、と赤面、冷汗を流すのは我々いつものことであるが…

「異端者の悲しみ」 谷崎 潤一郎

「こは予が唯一の告白書にして懺悔録なり」。谷崎潤一郎の自伝的作品はいくつか見られるが、谷崎にとってはこれが唯一のものであるらしい。 大文豪である谷崎にこのような時代があったのかと驚かされる。蓄音機を壊す騒動など中学生の反抗期のようだ。さして…

「猿面冠者/『猿面冠者』あとがき」 太宰 治

伝聞のような、ちょっと変わった文体。書かれているのはかなり痛い男ではあるのだが笑えない。たくさんの本を読んだが自分では書くことができない。妄想の中では傑作を書いており、世間の反応まで細かに想像しているのだが、いざ原稿用紙を前にすると一行も…

「谷崎潤一郎氏」 芥川 龍之介

谷崎氏はその日も黒背広に赤い襟飾りを結んでゐた。僕はこの壮大なる襟飾りに、象徴せられたるロマンティシズムを感じた。 短い文章の中に、「谷崎潤一郎の派手な襟飾り」 について表現を変えながら何度も書いている。というか、この作品自体ほとんどそれに…

「三十歳」 坂口 安吾

私はもう、矢田津世子に会はなかつた。まる三年後、矢田津世子が、私を訪ねて、現はれるまで。 (「二十七歳」) それから三年後の再会と別れ。 三年間、私が夢に描いて恋いこがれていた矢田津世子は、もはや現実の矢田津世子ではなかったのだ。夢の中だけし…

「鍵」 谷崎 潤一郎

これまでに読んだ谷崎作品の中でもっとものめり込んだ。凄い。 地の文はなくすべて日記である。「痴人の愛」のような読者に語って聞かせる文体とは違い、「秘密を覗き見ている」ような感覚になる。これはもちろん妻の体やその慾について書かれた日記の内容の…

「カインの末裔」 有島 武郎

獰猛な欲望と生命力に突き動かされる農夫、仁右衛門。人間に立ちはだかり圧倒する自然の猛威。羊蹄山のふもと北の大地を舞台に描かれた、無知ゆえに罪を犯す主人公の焦がすような生のいとなみ。 (青空文庫の説明より) 読み終わってもよくわからなかったの…

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