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本のない書斎の書評ブログ

透明な水槽のなかの生き物【コンビニ人間】感想

 

芥川賞受賞作。考えさせられる部分が多くありつつも、読みやすく、純粋に娯楽として楽しめる一冊。

 

あらすじと感想

主人公は、同じコンビニで18年間アルバイトをしている36歳独身女性。こう書くと人生に焦りを感じているアラフォー女子の話かと思われるのだが、そうではない。主人公の恵子には、「普通」がわからない。幼いころから、恵子の言動に周囲の「普通の人々」が困惑することがあったが、恵子自身には、何がいけなかったのか、理由がわからないのだ。

「どうしたの、恵子? ああ、小鳥さん……! どこから飛んできたんだろう……かわいそうだね。お墓作ってあげようか」

 私の頭を撫でて優しく言った母に、私は、「これ、食べよう」と言った。

「え?」

「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」

母は懸命に、「いい、小鳥さんは小さくて、かわいいでしょう? あっちでお墓を作って、皆でお花をお供えしてあげようね」と言い、結局その通りになったが、私には理解できなかった。皆口をそろえて小鳥がかわいそうだと言いながら、泣きじゃくってその辺の花の茎を引きちぎって殺している。

 

恵子は両親を悲しませないため、必要なこと以外は喋らず、自分からは行動しないようになる。大人たちは安心したが、今度はおとなしすぎることが問題とみなされるようになる。大学生になった恵子がアルバイトをはじめると、恵子の社会適合性を心配していた家族は喜び、安心した。完璧なマニュアルが存在し、その通りに行動することが求められるコンビニ店員のアルバイトは、恵子に「世界の正常な部品」であるという感覚を与えてくれる。いっしょに働く他の店員の喋り方や服装を真似て、恵子は「普通」を演じる。

同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。

泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。

 

年月が経つと、まわりはだんだんと就職も結婚もしないでずっと同じコンビニでアルバイトをする恵子を訝しみはじめる。恵子はなぜと聞かれてもうまく答えられない。「普通」の妹が考えてくれた言い訳でごまかしてきたが、それも通用しなくなってきていた。

「でも、変な人って思われると、変じゃないって自分のことを思っている人から、根掘り葉掘り聞かれるでしょう? その面倒を回避するには、言い訳があると便利だよ」

皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。

 

恋人が欲しいとか結婚したいとかいう発言は共感を得られるが、「恋人はいらない」「結婚したくない」と言えば必ず「どうして?」と聞く人が現れる。その人にとってそれは「普通ではない」ことだからだ。

 

ある日恵子が出勤すると、問題の多かった35歳の白羽がアルバイトを首になっていた。

皆が笑い声をあげ、私も「そうですね!」と頷きながら、私が異物になったときはこうして排除されるんだな、と思った。

 

恵子は偶然外で白羽の姿を見つける。「結婚をして、周りから文句を言われない人生になりたい」と愚痴をこぼす白羽に、恵子はある提案をするが・・・

「普通」がわからない恵子、「普通」を押し付けようとする周囲、「普通」に反発しながらも迎合する白羽。

ガラスの箱の中にある、機械仕掛けのようなコンビニ。恵子にとってそれは「余計な煩わしさのない世界」、まさに「清潔な水槽」である。コンビニを「音と光に満ちた透明の水槽」とする表現は美しくもあり、同時に、恵子がコンビニの中でしかうまく生きられない生き物であるということを思わせる。

 

 

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