読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Empty Study

本のない書斎の書評ブログ

筒井康隆のミステリー【ロートレック荘事件】ネタバレ感想

筒井 康隆 ■日本ミステリー

 

期待が大きすぎたか。仕掛けが分かってしまった。でもこのラストは良い。

 

感想

ある程度この手のトリックに慣れていれば、すぐに気が付くだろう。「工藤忠明」「木内典子」など、登場人物は皆フルネームで語られるが、「濱口」と「重樹」は絶対に 「濱口重樹」とは記述されない。ここから「濱口」と「重樹」は別人である、ということが想像できる。また、文庫版P51の「ロートレック荘平面図」においては部屋割りがフルネームではなく「工藤」「典子」などと簡単に記載されているのだが、ここでは「濱口」と「重樹」は以下のように改行で記載されている。

濱口

重樹

この部屋にいるのは「濱口重樹」という1人の人物であるとも読めるが、実際にはこの部屋には「濱口」と「重樹」という2人の人物がいるのである。「工藤」は「工藤忠明」ではなく「工藤」と記載されているので、後者の解釈の方が自然で、筋が通る。

物語は「おれ」の一人称で語られるが(立原絵里が語り手となる第十五章を除く)、この「おれ」は章によって「濱口」であったり「重樹」であったりする。犯人は「重樹」なのだが、犯行時刻の語りは「濱口」のものであり、「濱口」にはアリバイがあるため、「おれ」は犯人ではない、つまり、「重樹」は犯人ではない、とミスリードする仕掛けになっている。騙されている読者にとって「おれ」は、「濱口重樹」で、体が小さくて、画家で、エッセイなども書き、3人の女に愛されている。しかし実際には語りの「おれ」は「牧野寛子と立原絵里から好意を持たれている画家の濱口」と「木内典子から好意を持たれており、体が小さく、エッセイなども書く美術評論家の重樹」が交互に務めている。幼少期の語りは「濱口」だが、次の章では語りが「重樹」に変わる。ここで語り手が変化したことは誰もが分かることだが、この部分は名前が出てこなかった8歳の「おれ(濱口)」を「工藤忠明」だとミスリードする部分であると同時に、「この小説では語り手が変わる」というある意味ではヒントとなる部分でもある。

文章は決して難解ではないが、あまり「読みやすい」という感じではない。人物誤認トリックのためにねじれが生じているせいもあり会話部分などはちょっとわかりにくい。

残念ながらトリックには驚けなかった。これは叙述トリックものを好み、そればかり読もうとする私のほうにも問題があるのだが。第十七章からのタネ明かしに、もっと早くに読んでいれば楽しめただろうか、などとなんとも残念な気持ちになったが、最後まで読んだら感想が変わった。最後の章、たった2ページの短い章だが、これが素晴らしいのだ。典子の真意を知った重樹は苦しみ絶望する。最後の一言はあまりに印象的。

夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。

アクセスカウンター