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Empty Study

本のない書斎の書評ブログ

社会派サイコサスペンス【連続殺人鬼 カエル男】ネタバレ感想

中山 七里 ■日本ミステリー

 

タイトルからはB級映画のような印象を受けるが、これがなかなか本格派。最初は「連続殺人鬼 カエル男」ではなく「災厄の季節」というタイトルだったそう。

著者は映画化もされた「さよならドビュッシー」の中山 七里。

【さよならドビュッシー】 - Empty Study

どんでん返しにつぐどんでん返し、帯に偽りなし。(この手の文句がネタバレになる、というのは別問題としてあるが。)最後の章、なかでも最後の一行がこの作品の完成度を確固たるものにしていると思う。きれいに落としているというか、パズルのピースがぴたりと嵌まるような心地よさがある。真犯人がわかっていながら逮捕できない、しかし結末は因果報応。なるほど、「告げる」はそういう意味か。

 

感想

素直に読むならば、ナツオのエピソードはカエル男の幼少期だろうと予測される。叙述トリック作品であることは承知の上なので、おそらくこの「ナツオ」が誰なのか、がポイントとなるだろう。「夏緒」を「ナツオ」と表記して、男と思わせている。「カエル男」という名前もまた「犯人は男である」とミスリードする効果があるが、第一の犯行で「死体を吊り下げる」という力仕事をしていることから、警察はマスコミが「カエル男」というネーミングをする以前から犯人は屈強な男であると推測している。カエル男の幼少期と思われるナツオは、虐待から別人格を形成し、小動物をいたぶって殺すようになる。ついに人間の女の子にも手をかけたナツオは、施設に送られ、更生プログラムの後、新しい名前で人生をやり直すことになる。登場人物の中で、「名前が変わった」ことや「幼児を殺した」ことが描かれているのは当真勝雄である。勝雄は力も強く、幼児性も持ち合わせている。勝雄の部屋には犯行現場に残された文章の原本である日記や、血の付いた衣類、凶器などの物的証拠(日記以外はさゆりからもらったもの)が揃い、何よりも勝雄自身「自分はカエル男」と思い込んでいるので、そのような独白をするシーンもある。素直に読めば、勝雄がカエル男であり、かつての「ナツオ」である。しかし違和感もある。勝雄が殺したのは「幼児」だ。ナツオが殺した「美香ちゃん」は8歳なので、幼児というには少し年齢が高い。また、カエル男の犯行文についても、実際の殺人と微妙に異なる点がある。「ひのついたかえるはもえながら、とんだりはねたりしたのですごくたのしかった」と書かれているが、燃やされた衛藤和義は車椅子で、さらに火を付けたのは絞首後であるから、飛んだり跳ねたりはおそらくしなかっただろう。文章は犯行後に書かれたものではなく、元からあった文章に合わせて犯行が行われた。この日記は幼少期の勝雄のものだ。これを利用して、さゆりが犯行を行なう。物証は勝雄に渡し、勝雄に「自分が世間を震撼させているカエル男である」と信じこませる。時には犯行の手伝いもさせる。さゆりは勝雄の保護司だが、実はさゆりにも更生の過去があった。名前も変えている。「ナツオ」はさゆりだったのだ。カエル男は第四の犯行で指の肉を噛み切られている。さゆりのピアノの音で真犯人に気が付くというのはなかなか粋な演出だ。空周りばかりの古手川はここでようやく主人公の刑事としての活躍を見せる。これまでにも熱血刑事ドラマのような台詞や、満身創痍の格闘シーンなどが描かれているものの、やはり主人公の刑事には格闘よりも頭脳で活躍していただきたいものだ。格闘シーンの長いことはこの小説の数少ない難点である。市民が警察署を襲う暴動のシーンはどちらかというと映画向きだと思う。

随所に「社会」や「群衆」の描写が見られる。殺人鬼は自分とは「違う存在」である、「異常者」であると思い込みたい人々。自分や家族の命が奪われる恐怖から暴徒化する人々。刑法三十九条。健常者と異常者の違いは何か。違いなどないのか。心神喪失者の行為はこれを罰せずーーエンターテイメントだけではなく問題提起も含む作品となっている。

カエル男は誰だったのか?

自分がカエル男だと信じている勝雄。

勝雄に罪を着せた、実行犯のさゆり。

勝雄に罪を着せ犯行を行なうよう、さゆりを操った御前崎教授。

3人がカエル男であったと言うこともできるし、カエル男などいなかったと言うこともできる。少なくとも、マスコミや大衆が描いたような「幼児性の残虐な無差別殺人を行なうサイコキラー」は存在していなかった。そのようなものは幻想で、すべては教授のシナリオ通り、計画された緻密な犯行。しかし皮肉なことに、事態は教授の予測しなかった方向へ向かう。因果応報。自分をカエル男と信じて疑わない勝雄は、犯行の続きを行おうとする。御前崎教授が5人目の被害者となるとき、幻想ではない、本物のサイコキラーが誕生する。「災厄の季節」は訪れる。

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

 

マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは? どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。

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