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本のない書斎/中身のない研究

緻密な設定の妙【七回死んだ男】ネタバレ感想

 

主人公の大庭久太郎は、自分の意図と関係なく、時間の「反復落とし穴」に入るとの設定である。(解説より)

 

「バタフライ・エフェクト」、「時をかける少女」、「アバウト・タイム」など、「過去に戻って変更を加えることができる」設定のストーリーは多々あるが、「七回死んだ男」の主人公の場合は、自分の意志とは関係なく強制的に反復させられ、しかも反復はきっかり九回と決まっている。いつ「反復落とし穴」に入るのかということに規則性はなく、いつ起きるか自分でもわからないため本人は「能力」ではなく「体質」と捉えているようだ。主人公の名前は久太郎(ヒサタロウ)なのだが、「キュータロー」と呼ばれている。これはおそらく九回に掛けているのだろう。

 

「反復落とし穴」に入ると、そこからはい上がってくるまで何度も同じ一日が繰り返されるのだ。その一日の単位は、夜中の十二時から次の夜中の十二時まで。それが九回繰り返されて、ようやく本当の次の日が始まる。その間、同じ一日が繰り返されていることを知っているのは主人公だけ。二周目、三周目に何が起きても、次の周にはリセットされ、九周目に起きたことだけが本当の次の日に引き継がれる。(解説より)

 

ストーリーは、「反復落とし穴」の反復中に久太郎の祖父が何者かに殺されてしまい、久太郎はその体質を活かして祖父が殺されるのを何とか防ごうとする、というもの。目的は犯人探しではなく、あくまでも、殺人の阻止なのである。ところが、犯人と思われた人物を祖父から遠ざけるよう謀っても、別の誰かが祖父を殺してしまい、なかなか殺人を防ぐことができない。

 

感想

 

わたしの仮説は以下の3つだ。

 

  1. 久太郎は一月二日を丸一日寝て過ごし、目覚めたのは一月三日で、三日を反復していた。(だから皆に体調を心配された)
  2. 一月二日と同じ始まりの一月三日が存在し、久太郎はそれを二日の反復だと認識している。(だから友理さんは久太郎のプロポーズを覚えている)
  3. 祖父を殺したのは久太郎自身だった。(だから祖父は殺される因果にあり、久太郎が殺さないので別の誰かが殺していた)
  4. 久太郎以外にも、特殊な体質の人物がいた。

 

4についての根拠はない。3は叙述トリックでよくあるパターン。1は実際と近かったのだが、微妙に違った。久太郎は一月二日をちゃんと起きて過ごしていたのだ。

 

2が一番正解に近かった。反復の中で、わたしが違和感を感じたのは友理さんの発言だ。友理さんの言う相手とは、久太郎のことではないのか? つい先日プロポーズされたとか、いっしょになるのはまだ先になるだろう(久太郎はまだ高校生である)とか。しかし久太郎が友理さんに愛の告白をしたのは1度だけで、それは「反復落とし穴」によってリセットされているはずだから、友理さんがそれを覚えているのはおかしい。この日はリセットされていないのだとすれば、久太郎は一月二日を起きて過ごし、友理さんに思いを告げ、その次の日、一月三日から「反復落とし穴」に入った、ということになる。しかし朝に聞いた祖父たちの会話が前日と同じなのはどうしてだろうか。

 

この答えは単純で、「祖父がボケていて連日同じ質問をし、まわりの人間はそれに付き合っていた」というものだ。なるほど。登場人物がみな「制服」を着せられているのも、日付誤認に役立っている。

 

実際には祖父は殺されておらず、飲酒によって亡くなっていた。それを阻止するために久太郎が「反復落とし穴」の途中で知った祖父の秘密をちらつかせて酒をやめるよう約束させる、という解決策はちょっとピースフルで良い。また、全体を通して、高校生とは思えない久太郎のキャラクターも魅力的である。

 

ところでわたしは大事なことを忘れていた。反復はきっかり九回。つまり、この仮説だと、「次の日」が来るべき日に「反復落とし穴」の九回目が来てしまう。辻褄が合わなくなるのだ。

 

この点については友理さんが恐ろしい推理を披露する。叙述トリック系でも、ここまで「ゾッとする」オチはなかなかないのではないだろうか。久太郎は「反復落とし穴」の間、一度死んでいる。だからその日を数えていないのだ、と。

 

タイトルの「七回死んだ男」はもちろん祖父を指すのだが、祖父は八回死んだ可能性もある。かわいい孫の久太郎が死んだ日は、さすがに酒盛りはしなかっただろうから、おそらく七回なのだろうが。

 

西澤保彦の作品は他にも読んでみようと思っている。

【人格転移の殺人】ネタバレ感想 - Empty Study

 

どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは! 時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。

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