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本のない書斎/中身のない研究

「猫町」 萩原 朔太郎

 

猫町。可愛らしいタイトルに、ほのぼのした作品を想像していたのだが、違ったようだ。

 

「散文詩風な小説(ろまん)」という副題がつけられている。わたしの印象では、小説というよりエッセイという感じ。

 

どこへ旅をしようと同じような町や村、同じような人間ばかり――旅行にも飽きた著者はモルヒネやコカインによる「空想の旅行」に耽る。すべてが鮮やかなその旅行はしかし健康をひどく害した。

 

ある日著者は「方向の錯誤」により、いつもと同じ町が珍しく美しいものに見えるという体験をする。それからというもの、故意に錯覚を起こしてこの不思議な現象を楽しむようになる。

 

ある温泉地の村で迷子になった著者の眼の前に、奇妙な町が現れる。

猫ばかりの住んでる町、猫が人間の姿をして、街路に群集している町――猫といっても可愛らしい雰囲気ではない。おどろおどろしく不吉で不安定、何か恐ろしささえ感じる描写だ。

 

目の前に現れた猫の町。モルヒネの幻覚か、詩人の妄想か。しかし本人にとって、自分がこれを「見た」ことは絶対的な事実なのである。ある瞬間、方向の錯誤によって迷いこんだ猫町。宇宙のどこかに、それは必ず存在している――たとえ誰も信じなくとも。

 

見る方向が変われば全然違った見え方になる、というのは分かるような気もする。子供はそれで迷子になるのかもしれない。帰り道は見たことのない風景だから。

 

 

図書カード:猫町

 

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