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本のない書斎/中身のない研究

「愛と美について」 太宰 治

 

再読。

作中に、イプセンの戯曲「人形の家」が出てくる。「人形の家」は読んだことがあるが、これは古い作品にしては珍しく、女性の自立というか、「夫の言いなりの人形」からの解放を描こうとした作品であったと記憶している。太宰の兄はこのイプセンの研究をしているのだそうである。

 

最初に、5人の兄弟それぞれの趣味嗜好や性格などを紹介する部分があるのだが、これだけでも非常に面白い。兄弟だからこその表面的ではない描写で、しかもセンスを感じさせる。

 

さてこの家では、退屈すると皆で物語の連作をはじめるのがならわしなのだそうだ。

兄弟が順番に物語を語っていく。それぞれに特徴があるが、特に長女のは、いわゆる話の筋だけでなく、何か真理に近いようなものが含まれているのが印象的だった。

 

歩いていても、何ひとつ、これという目的は無いのでございますが、けれども、みなさん、その日常が侘びしいから、何やら、ひそかな期待を抱懐していらして、そうして、すまして夜の新宿を歩いてみるのでございます。いくら、新宿の街を行きつ戻りつ歩いてみても、いいことは、ございませぬ。それは、もうきまって居ります。けれども幸福は、それをほのかに期待できるだけでも、それは幸福なのでございます。いまのこの世の中では、そう思わなければ、なりませぬ。

 

最後のオチは母。なんともいい家族である。

 

 

図書カード:愛と美について

 

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