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本のない書斎/中身のない研究

「押絵と旅する男」 江戸川 乱歩

 

わたしにとって乱歩の作品は、夢野久作を思わせることが多い。

 

電車に乗り合わせた奇妙な男。男は1枚の押絵を持っていた。なぜか引き寄せられるようにして男と話すことになってしまう。

 

男の兄は、望遠鏡で覗いた景色に見た美しい娘に恋をした。しかしそれはまるで生きているかのような美しい押絵であった。それでもその娘を愛した彼は、望遠鏡でさかさに覗かれることで自身も押絵の中に入ってしまって、絵の中で今も生きている。もともと絵であった娘と違って、男の方は押絵の中で年をとって、すっかり老人になってしまった――

 

押絵の男は自分の兄だという老人。にわかに信じがたい話ではあるが、たしかに著者の目にも押絵の2人は生きているように見えた。

 

老人の妄想か作り話か。はたまた、この老人と話したという出来事自体が自分の見た夢であったのか。

 

まるで現実のように鮮やかな夢というのは存在する。

実際の記憶なのか夢なのか分からない記憶。

現実に起こったにしては辻褄の合わない部分があるが、しかしそれでもなお夢とは思えぬ鮮明な記憶。

ここに詳しく書くことはしないが、わたしにもそういう記憶がある。

赤い金魚が、サンダルの素足の上で跳ねた感覚まで覚えている。

こういう記憶というのは、誰にでもあるものなのかもしれない。

 

 

図書カード:押絵と旅する男

 

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