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本のない書斎/中身のない研究

「黒猫」The Black Cat エドガー・アラン・ポー

 

再読。「壁に死体を埋め込む」という方法は、後の探偵小説に多くの影響を与えたことと思われるが、この作品自体はそのようなものではない。書かれているのはやはり恐怖である。

 

ふつうの感覚では、それは猫のせいではなく自分が悪いだろう、と思われるのだが、語り手の男にとって、これは「忌まわしい黒猫によって破滅させられた」話なのである。

 

「私」は動物好きで、妻とともにたくさんの動物を飼っていた。中でも美しい黒猫はお気に入りで、猫の方も自分によくなついた。しかし酒に溺れるようになった「私」は、妻や動物たちを虐待するようになる。ある夜、酔っぱらって帰ると、黒猫が自分を避けたような気がした。「私」は怒りにまかせて黒猫の片目をナイフでえぐり取った。

 

私は、前にあんなに自分を慕っていた動物がこんなに明らかに自分を嫌(きら)うようになったことを、初めは悲しく思うくらいに、昔の心が残っていた。しかしこの感情もやがて癇癪に変っていった。それから、まるで私を最後の取りかえしのつかない破滅に陥らせるためのように、天邪鬼の心持がやってきた。

 

この天邪鬼の心持がいま言ったように、私の最後の破滅を来たしたのであった。なんの罪もない動物に対して自分の加えた傷害をなおもつづけさせ、とうとう仕遂げさせるように私をせっついたのは、魂の自らを苦しめようとする――それ自身の本性に暴虐を加えようとする――悪のためにのみ悪をしようとする、この不可解な切望であったのだ。

 

あえて罪を犯すことで神の庇護から外れようとする「私」は、さらなる虐待を加えるべく、猫を木に吊るすのだが、その日に家事が起きたため猫は死んでしまった。

 

ある夜、酒場で死んだ黒猫によく似た猫を見つけ、飼うことにする。猫に片目がないことに気付いた「私」はこの猫を忌み嫌うようになるが、猫の方は嫌えば嫌うほどかえってなついてくるようであった。

 

この猫には胸に白い斑点があったのだが、それが次第に絞首台の形に見えてきた。衝動的に猫を殺そうとするが、妻に止められてしまう。逆上して妻を殺し、死体を壁に埋めて隠した。猫も殺すつもりだったが、どこにも姿が見えなかった。

 

警官が家を調べに来た時、「私」が壁を叩くと中から猫の声がして、犯罪が暴かれてしまう。死体を埋めたときに一緒に埋めてしまったのである。死んだ猫によく似た黒猫は、「私」の絞首台そのものとなった。

 

そいつの奸策(かんさく)が私をおびきこんで人殺しをさせ、そいつのたてた声が私を絞刑吏に引渡したのだ。

 

それでも、酒に溺れて虐待をすることや、何の罪もない猫や妻を殺すことに同情の余地は極めて少ないと言わざるを得ない。2匹目の黒猫は、天罰の使者ようなものを連想させる。

 

黒猫 (集英社文庫)

黒猫 (集英社文庫)

 

 

図書カード:黒猫

 

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