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本のない書斎/中身のない研究

「黄色い顔」The Yellow Face アーサー・コナン・ドイル

 

近所の家に誰かが引っ越してきてから、妻の様子がおかしい。夜中にこっそり出ていったり、その近所の家から出てきたり、少し前には、まとまったお金を必要としていて、その理由も言おうとはしなかった。依頼人の妻には、アメリカで結婚した前夫とその子供がいたが、どちらも病気で死んでしまった。近所のその家の窓からは、人間とは思えない冷たい顔が一瞬覗いた。

 

ホームズは、前夫が本当は生きていて妻を脅迫しているのだろうと推理するが、その推理は外れていた。 生きていたのは前夫ではなく子供の方だった。妻の前夫は黒人であった。妻は「黒人の連れ子がいると嫌われるのではないか」という心配から子供のことを隠してきたのだ。依頼人が見た窓の顔は、黒人とばれないように仮面をつけさせられた子供の顔であった。

 

依頼人は黒人の子供を受け入れ、抱き上げてキスをする。偉大なる愛の勝利、美しきハッピーエンドである。もちろん根底に人種差別があるからこそ、この作品は成り立っている。作品に登場するのは白人と黒人であるが、タイトルの「黄色い顔」は黄色人種を連想させる。顔は仮面であるから、別に赤でも青でも緑でも良いわけだが、これが黄色なのはやはり人種というテーマを意識しているのだろう、というのは邪推だろうか。

 

ホームズが推理を外した、というのは初めてではないかと思う。相手の方が一枚上手だったり、先に逃げられてしまったりするようなことはあったが、その場合もホームズの推理が間違っていたわけではなかった。依頼人のハッピーエンドに対して、苦い教訓を得たホームズ、というのはなかなか良いラストである。

 

「これからもし私が、余り自分の力に頼りすぎていると、君が気づいた時は、そしてまた、事件を余り考えないで扱おうとしているような様子が目についたら、どうか遠慮なく、私の耳へ「ノーブリー」とささやいてくれたまえ。そうすれば、僕は君に永久に恩をきるよ……」(青空文庫「黄色な顔」)

 

回想のシャーロック・ホームズ【新訳版】 (創元推理文庫)

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黄色い顔

図書カード:黄色な顔

 

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