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本のない書斎/中身のない研究

「肝臓先生」 坂口 安吾

 

いくつかの坂口安吾作品を読んだが、どれも引き込むのがとても早いのに驚かされる。面白くなるまでが長い作品というのは多いが、安吾の場合、冒頭の冗長さというものを一切感じさせない。

 

たとえば物語の冒頭では、その時代や場所を丁寧に描いたりすることがあり、そういうものは冗長になりがちである。しかし安吾がそのような描写をしていないのかというとそうでもない。的確に生き生きと描いており、冗長どころか、その巧みさに驚かされる。「肝臓先生」で描かれる漁師たちの生態、その捉え方は、この部分だけでもたいへんな才能を感じさせる。

 

ヒラメ族というものが、すべて一律にただヒラメであって、太郎ヒラメでも花子ヒラメでもないように、彼らにとって、人間族は一律にただ人間であって、その絶対の信頼感と同族感が漁師町に溢れているのである。

 

肝臓の彫刻が登場するあたりでは「風博士」のようなナンセンスやシュールレアリズム的作品かと思ったが、ひとりの医者の壮絶な物語であった。あとで実話をもとにしているらしいと知って驚いた。こんなすごい人がいたのか。

 

肝臓先生 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)

 

 

図書カード:肝臓先生

 

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