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本のない書斎/中身のない研究

「太宰治情死考」 坂口 安吾

 

すぐれた魂ほど、大きく悩む。

 

太宰がメチャメチャに酔って、ふとその気になって、酔わない女が、それを決定的にしたものだろう。

 

泥酔して、何かしからぬことをやり、翌日目がさめて、ヤヤ、失敗、と赤面、冷汗を流すのは我々いつものことであるが、自殺という奴は、こればかりは、翌日目がさめないから始末がわるい。

 

太宰のような男であったら、本当に女に惚れゝば、死なずに、生きるであろう。元々、本当に女に惚れるなどゝいうことは、芸道の人には、できないものである。芸道とは、そういう鬼だけの棲むところだ。だから、太宰が女と一しょに死んだなら、女に惚れていなかったと思えば、マチガイない。

 

 太宰の自殺は、自殺というより、芸道人の身もだえの一様相

 

ところで安吾や織田作之助は「文士」という言葉を使うのだが、わたしはこれが好きだ。「文豪」というのは職業ではないしまして自分で名乗るものでもない。その点「文士」というのは良い。「作家」というより趣があるし、ペンをとって戦っているような感じを受ける。それは世間や権威や時代との戦いでもあるが、何より己の芸術の戦いだ。さらに、ものを書くことが単なる職業ではなく生業であり、他のことは上手くできないがこれだけはできる、書かずには生きられない、という、そういう性質を感じさせるのだ。

 

文士の仕事は、批評家の身すぎ世すぎの俗な魂によって、バナナ売りのバナナの如くに、セリ声面白く、五十銭、三十銭、上級、中級と評価される。
然し、そんなことに一々腹を立てていられない。芸道は、自らのもっと絶対の声によって、裁かれ、苦悩しているものだ。

 

坂口安吾「太宰治情死考」

坂口安吾「太宰治情死考」

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図書カード:太宰治情死考

 

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