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本のない書斎/中身のない研究

「明治開化 安吾捕物 その八 時計館の秘密」 坂口 安吾

 

変化球。海舟と虎之介は後半に少し顔を出して間違った推理を披露するが、それだけである。新十郎もさらっと登場するのみ。そして犯人を知りながら(正確には「殺人があったということを知りながら」と言うべきかもしれない。ほかの者にはただの失踪と思われている)、黙認する。

 

シリーズ初の「新十郎と犯人」によるラストは、一見粋な感じにも思えるが、これは時代のせいかもしれない。殺されたお源・お米・花亭は、「殺されて当然の極悪人」というわけではなく、ただ、これまでずっと不幸だった正二郎がやっとつかんだ幸せの邪魔になるから、という理由で殺されているのである。

 

「時計館の秘密」というタイトルだが、館ものというわけではなく、どちらかというと貧民窟の方が印象的だった。しかしいろいろな土地を流れて重婚したり妾をとったりというのは、なんとも牧歌的な時代があったものだと感じる。

 

新十郎は、ニッコリ笑って、
「三本の石油カンはどうなりましたか」
「オモリをつけて海底へ沈めましたよ。銚子沖三十海里。再び浮き上がることはありません。しかし私の負けでした」
 一力がこう云ってアッサリ立ち上る前に、新十郎がアッサリと帽子をつかんで立上った。
「三人は海の底へ失踪したようですな。銚子沖三十海里に安住の地を見つけだしているそうです」
 こう云うと、呆気にとられている一力を残して、新十郎はスタスタ立去ってしまった。

 

勝海舟捕物帖 (人物文庫)

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図書カード:明治開化 安吾捕物

 

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