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本のない書斎/中身のない研究

「明治開化 安吾捕物 その五 万引家族」 坂口 安吾

 

だんだん冒頭の「海舟と虎之介」のシーンが省略されるようになり、「事件の話をたっぷり語ったうえで後半にようやく名探偵が登場する」という、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズのようになってきた。事件は虎之介の聞き伝えでなく、字の文で語られる。

 

「万引家族」は、これまでに読んだ安吾捕物の中ではいちばん面白かった。

まずタイトルがキャッチーである。そして事件の内容も、いわれてみればよくあるパターンなのであるが(顔の破損した死体は実は別人で、死んだと思われていたその人は生きていた)、なかなかどうして見せ方が上手いのである。なぜ万引きをしていたのかも筋が通るし、そのほかの奇行についてもすべて納得がいく。

 

犯人は家族のためにと殺人を犯すが、その相手こそが実は家族を守っていたという悲哀もあって、とても良かった。

 

最後はなごやかに終わる。

 

「殺されたのが殺した奴で、死んだ奴は生きていたかい」
 海舟は手際よくだまされたのが快よげに笑った。
「そうかい。新十郎は見て見ぬフリをしてやったのかい。今や天下にこの秘密を知る者は、新十郎、花廼屋に虎之介、ならびにこの海舟の四名だが、野草に代ってユスリを働きそうなのは……」
 海舟がここで口をつぐむと、虎之介はドキリと胸に一発、大砲のタマをくらった驚き、ワナワナと今にも冷汗が流れでそうな不安な面持。
「ナニ、虎にはやれやしねえやな。何一ツ出来ないように生れついているんだなア」
 こういわれて、ホッと崩れるような安堵の思い。恐懼きょうくおくあたわざる虎之介であった。

 

明治開化 安吾捕物帖〈1〉

明治開化 安吾捕物帖〈1〉

 

 

図書カード:明治開化 安吾捕物

 

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