読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Empty Study

本のない書斎の書評ブログ

語り手は嘘を吐かない【星降り山荘の殺人】ネタバレ感想

倉知淳 ■日本ミステリー

 

なるほどこれは上手い。

たった一言で覆すのではなく、「たった一言でミスリードする」作品です。

 

感想

閉ざされた山荘での連続殺人、これ以上ないベタな設定。加えて登場人物のキャラが濃い。特徴としては、全てを知っている存在の語り手がときおり登場し、ストーリーを解説をしたりヒントを出したりするという点。「これは偶然だから事件とは関係ないですよ」とか、「ここには重要な伏線がありますよ」とか。事件が起きるまでが長いのだが、ときおりこの語り手が

事件がなかなか起きないからといって退屈してはいけない

重要な伏線がいくつか張られているからである

という感じで登場するのでテンポよく読み進めることができる。

章のはじめに必ずストーリーテラーが登場するのですが、ヒントを出すとみせかけてこれこそがミスリードというわけですね。

問題の部分はこちら。

和夫は早速新しい仕事に出かける

そこで本編の探偵役が登場する

探偵役が事件に介入するのは無論偶然であり

事件の犯人では有り得ない

麻子が星園を犯人だと言ったとき、気が付きました。

ああああああそういうことか!

ストーリーテラーによって「探偵役が登場する」と教えられたパートに、麻子も登場していた。「探偵役」は星園ではなく、麻子だったのだ。

物語的には、犯人は「和夫」「星園」「麻子」の誰かでないとパッとしないので、この3人の誰かだろうと予想しましたが、ストーリーテラーによって「ワトソン役は犯人ではありえない」「探偵役は犯人ではありえない」と明言されてしまっています。ワトソン役は和夫、探偵役は星園、ということは麻子が犯人? となるわけですが、実は「探偵役」が「星園」であるとはどこにも書いていないのです。星園が登場し、名探偵風の推理を披露するパートに、「そこで探偵役が登場する」なんて書いてあるものだから、この星園が「探偵役」であると思わされてしまうのですね。麻子もこのパートが初登場なのですが、名前も書かれず、「廊下でぶつかったかわいい子」として一瞬登場するだけです。この時点では、この「廊下でぶつかったかわいい子」が「主な登場人物」に載っている誰かであると予想することもできなくはないですが、そのような考えはかなり深読みしている人だけでしょう。(というか、ここに気がついたらもう作者の意図はわかったようなものですよね。)もちろん、これが麻子であることはちゃんと後述されますのでアンフェアではありません。

難を言えば、星園が語った昔の事件のことがよくわからないまま終わるというのが少し気になりました。星園が犯人ならば、この事件が動機になるというのが自然な気がしますが、動機とは特に関係がなく、「おおかた作り話だろう」で終わるのならば、このエピソードは要らなかったのでは? と思ってしまいました。昔の密室殺人のトリックがカギとなる、というわけでもないですし。「お金が必要な理由」なら、恋人が難病で、とか、いくらでも捏造できますからね。

推理小説をたくさん読んでいるわけではないのですが、謎解き自体の完成度については特筆すべきハイレベルというわけではないと思います。ストーリーテラーのミスリードがなければふつうの推理小説なので、叙述トリック抜きでもおすすめ、とはちょっと言い難い。仮に「探偵役は犯人ではない」という部分を読み飛ばしたり、読んだとしてもすっかり忘れてしまったりした場合には、この作品の面白さは味わえません。ストーリーテリングの部分は太字ですし、推理小説ですからたいていの人は注意深く読むと思いますが。

しかし叙述トリックには完全にやられました。何が上手いって、本文での「種明し的説明」は一切なしで、ここまで鮮やかに「どこでどう騙されたか」はっきりわかるというのは他にないですよ。見事でした。

雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる殺人事件……。果たして犯人は誰なのか!? あくまでもフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編推理。

アクセスカウンター