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Empty Study

本のない書斎の書評ブログ

スポ根×音楽×ミステリー【さよならドビュッシー】ネタバレ感想

 

「カエル男」の解説を読んで気になったのでこちらも読むことに。たしかに甲乙つけがたい。しかし最後にはこちらが選ばれたというのは納得です。カエル男のプロットもすごいですが、ドビュッシーの方が人物が魅力的に書かれていると感じました。

【連続殺人鬼 カエル男】 - Empty Study

今回も帯から余計な情報を受け取ってしまいました。カエル男の解説では、「まったく違う作風」とあったので、こちらには叙述トリックやらどんでん返しやらはないものと思っていましたが、帯にしっかり書いてありましたね。「どんでん返し」と。

 

感想

全部で5章に分かれていますが、「1章」と「2章以降」では語り手が違います。ただ、これはわかりやすいので「どんでん返し」と言われなくても気づく方は多いのではないでしょうか。火事の直前の「ゲーム」も、入れ替わりを示唆しています。死んだのはルシアではなく遥の方で、遥のパジャマを着て遥の部屋に寝ていたために「遥と間違われたルシア」はそのまま遥として生きていきます。母親にとっては、間違えたというよりも、遥だと思いたかった部分も多くあるでしょうね。全身を火傷し、声も変わり、顔は遥の写真を参考に成形手術をされていますので、映像化も問題なくできます。ピアノの実力は遥の方が上なのですが、ほとんど弾けなくなるのでここからばれることもありません。読者向けには、「魚介類や果物」、「豚肉を食べなくて済む」というあたりがヒントになるでしょうか。「肉親を失ったばかり」というのは「火事でおじいちゃんを失った」ことではなく、「震災で両親を失った」ことをさします。

しかし、この時点で「どんでん返し」が何かわかってしまったからつまらないかと言うとそういうわけでもないのですよね。そこがすごいところで。わかっていても面白かったです。この本の解説には「題材は音楽だが要するにスポ根」とあって、なるほどな、と思いました。少女が成長していく様は、事件が何も起きなくても作品になるんじゃないかと思います。

事件は、「最初の火事」「遥(ルシア)の殺人未遂」「遥の母親の転落死」が遺産を狙う一連の犯行ではないかと思われましたが、それぞれはバラバラで、遺産目当てのものはひとつもありませんでした。最初の火事は純粋な事故。遥(ルシア)を狙ったのは、ルシアの正体に気が付いたみち子が、「遺産目当てでルシアが火をつけ、おじいちゃんと遥を殺した」と思い込み、復讐のためにルシアを殺そうとしていた。母親は、ルシアの正体に気が付いたので、とっさにルシアが突き飛ばしてしまった。この点は「実は語り手が犯人」ということなので、語り手の入れ替わりと合わせて2点に叙述トリックを用いています。しかし、「やられた」感はあまりなく、非常に「納得感」がありました。叙述ミステリにありがちな無理矢理感をあまり感じません。というか、作者の方もあまり騙そうとしていないんじゃないかな、という印象です。伏線がばれても問題なく面白い、そういう作品を狙って書いたのかも、と邪推しています。

最後まで騙されたら、もとから実力のあった遥ではなく、「ピアノがそれほどうまいわけではなかった」ルシアが不自由な指で優勝を勝ち取ったということがわかって、さらに感動する、という狙いがあったのかもしれません。

カエル男の探偵役は熱血刑事ですが、ドビュッシーの探偵役は天才でイケメンのピアニスト。こちらの方が人気が出そうですね。続編もあるようなのでそのうち手に取るかもしれません。

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

「最後にどんでん返しがあってね、面白かったです。思わず買っちゃいましたからね、クラシックのCDを。」<「ダ・ヴィンチ」9月号>と妻夫木聡さんも絶賛した音楽ミステリー。 祖父と従姉妹とともに火事に遭い、全身大火傷の大怪我を負いながらも、ピアニストになることを誓う遥。コンクール優勝を目指して猛レッスンに励むが、不吉な出来事が次々と起こり、ついに殺人事件まで発生する……。ドビュッシーの調べも美しい、第8回『このミス』大賞大賞受賞作。

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